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航太郎の不安が現実のものとなるまでにさほど時間はかからなかった。
舞衣と電話で話してから一週間ほど経ったある日の放課後、航太郎たちは志麻の家に呼ばれていた。楓山神社という名前の通り、神社の周りを覆うカエデの木々がちょうど鮮やかに紅葉している時期であり、それを見ながらお茶でも飲もうという趣旨だった。
「紅葉が神社の前の坂に落ちるでしょ。それで坂が真っ赤に染まって見えたから赤坂って名字になったって話。それまではうちも藤崎性だったらしいから」
一人だけ私服に着替えた志麻が言う。
「そっか、赤坂先輩は和水ちゃんの親戚なんですよね」
そう相槌を打つのは咲季だ。
いい機会だからと、直接志麻と面識のない咲季、桂子、橋本も招かれていた。「和水の友達ならぜひともお近づきになりたいしね」とは志麻の弁だ。それだけ和水の交友関係を気にかけていたということだろう。
涼子にも声をかけていたようだが、辞退されてしまったそうだ。航太郎がいるから、なのかもしれない。航太郎の目の前で泣いたのがよほどの屈辱だったのか、あの日以来、航太郎とはち合わせても不機嫌そうな声で挨拶するだけですぐ立ち去ってしまうのだ。
「ん、親戚って言うか、江戸時代に分かれた分家なんだよ」
「へえ、じゃあ和水ちゃんの家って由緒ある家なんですね」
「藤崎家は古い武士の家系だからね。鎌倉時代くらいまでは遡れるんじゃないかな」
「だから和水ちゃんって普段から礼儀作法がきちんとしてて上品なんですね」
感心しきった様子で咲季が言うと、志麻が苦笑いを浮かべた。
「それじゃ、普段きちんとしてないあたしの立場がないよね。うちだってそれなりには古い家なんだから。和水のあれは性格だよ。もう少しフランクでもいいと思うんだけど」
確かにその論法なら航太郎だって立場がない。天神家だって結構な古い家なのだから。
それにしても、志麻も咲季も、本人を前にしてずいぶんとあけすけな言いようだ。この二人は意気投合しそうだと思っていたが、予想以上だったようだ。
「二人とも、それくらいにしてくださいよ」
お節介かとは思ったが航太郎が口を挟むと、橋本も頷きながら加わった。
「そうそう、藤崎もさっきから困った顔してるし」
橋本の言う通り、和水は恥ずかしそうに俯いている。実際のところ褒められているわけなのだが、それすらも照れてしまうのだろう。
「ま、今更変わるものでもないけどね。今までだってさんざん言ってきたことだし」
と、そこで志麻は航太郎を見て面白いことを思いついたとばかりにニヤリとほくそ笑んだ。
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久し振りに吹奏楽をやろうかと。まずは見学に行ってきます。

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