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自分たちが鬼の血を引く一族であることは幼い頃から聞かされ続けてきた。しかし、そもそも鬼が何なのか、普通の人と何が違うのか、そこまでは知らされていなかった。
「何って言われても、角があるわけでも牙があるわけでもないし、ましてや人を襲って食べるわけでもありません。現代社会で普通に生活しているただの人間です。鬼だなんて、大昔のご先祖様が見栄張って自称しただけなんじゃないかって思うんですけどね」
航太郎の返答を聞いて、志麻はにやりと笑みを浮かべた。
「全国に散らばる鬼の一族の中には、自分たちがそもそも何者なのか、どうして鬼を名乗っているのか忘れてしまった人たちもいるって聞くよ。航太郎の里がそうなのかはわからないけど、中には一定の年齢に達してから初めて自分たちの正体を知らされる場合もあるらしいね」
「待ってください。その言い方だとまるで……」
「君たちは人間だよ。決して物の怪の類じゃないから、変な心配はしないで」
先回りした志麻の言葉に航太郎は何故だか安堵していた。
「ただ、普通の人間かと言われれば、答えはノーになるかな。少なくともあたしたちから見れば。まあ、他の人たちにとっては言われてもわからない程度の違いでしかないけどね」
志麻はそう言ってふふっと笑った。
「さてと。あたしたちが使う『鬼』という言葉には大きく分けて二つの意味がある。一つは君たちのような一族を指す言葉。そしてもう一つがいわゆる幽霊のこと。こっちは君たちと区別して『幽鬼』って呼ぶこともある」
確かにさっきまでの会話の中にも「幽鬼」という単語が何度か出てきた。流れから幽霊と同義くらいに考えて聞き流していたが、間違いではなかったようだ。
「元々、『鬼』って字は死者の体を離れて彷徨う魂を表したものなの。漢文の授業でそういうの出てこなかった?」
「どうでしょう。そういう話をどこかで聞いていれば覚えてるでしょうけど」
勉強は全般的に得意ではないが、自分に関係のある話題なら忘れてはいないだろう。カクテルパーティ効果というやつだ。……少し違うか。
「それで、どうして幽霊を表していたはずの『鬼』が僕たちの名称になったんですか?」
「その間を繋ぐのが、一般的なイメージでいう鬼の存在なんだよ。昔話とかに出てくるあの鬼ね」
昔話の鬼と聞いて航太郎は思わず顔をしかめた。人間を困らせる化け物で、ヒーローに退治される悪役として描かれる鬼の姿は、航太郎たちにとって気持ちのいいものではない。
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静電気のせいか、最近よくアホ毛が出ています。

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